みなさん、こんにちは! 前回から少し間が空いてしまいました。ゴールデンウイークも終わり、気温も徐々に上昇してきましたね。今回の第14回吞もかな通信は、第12回の日本酒の続きをお届けします。
目次
はじめに
第12回の吞もかな通信では、基本的な吟醸酒・純米酒・本醸造酒についてご紹介しました。吟醸酒・純米酒・本醸造酒は、材料と精米歩合の違いでした。今回はもう少し踏み込んだ酛造りによる違い(生酛・山廃・速醸)をお届けします。
酛(酒母)とは?
まず、酛(酒母)とは何かからご説明していきます。酛とは、日本酒のアルコールを発生させるもの、まさに酒の母です。蒸米と麹と水を合わせて造ります。
酛は、実は完成までにはタンクの中で様々な微生物が活動しています。はじめに活動するのが、低温に強い硝酸還元菌です。これが亜硝酸を生成して他の雑菌や野生の酵母を攻撃します。温度を徐々に上げていくと、今度は乳酸菌が増殖し、強烈な乳酸で硝酸還元菌や雑菌を排除します。しかし、乳酸も酵母にだけは敵いません。最後に酵母が加わって発酵を行うと、乳酸はアルコールによって死滅します。
酛は山おろし、酵母添加を経て、温度管理を行うことで完成します。造り方を以下で詳しく見ていきます。
酛造り
酛は米麹に蒸米(じょうまい)と水を合わせて培養していきます。聞き慣れない言葉が出てきたと思うので以下で説明していきます。
蒸米
甑(こしき)という道具を使って米を蒸し、「外側は硬く内側は柔らかい」状態にします。蒸米は、麹用の麹米と、後で投入する掛け米に分けられます。
米麹
麹米に麹菌を振りかけてできるものです。掛け米のデンプンを糖化する働きがあります。
では、酛造りに関して詳しく見ていきます。
①山おろし
米麹と蒸米、水を擦り合わせて、お米に麹を付着させます。これを酛造りのタンクに移して微生物の繁殖を待ちます。
②酵母添加
添加した酵母によって、麹菌が分解したブドウ糖からアルコールが生まれます。
③酛
温度管理を行い、酵母の活動を促します。30日程で酛が完成します。
酛の作り方が分かりました。ここで、今回の本題である酛造りによる違い(生酛・山廃・速醸)を見ていきたいと思います。
酛造りの違い
生酛
江戸時代に確立した伝統的な手法です。麹と蒸米、水を桶に入れて擦り合わせる「山おろし」をすることで、麹菌を均一に米に付着させることができます。また、自然界に生息する乳酸菌を取り込んで培養します。
米・麹・水 + 酵母 = 酛
時間と手間を掛けて酛を造るため、発行がスムーズに行われます。繊細でエレガントな味わいになります。
山廃
明治時代に確立した方法です。麹を水に溶かした「水麹」を用意し、それと蒸米を合わせます。字のごとく「山おろし」を「廃止」することからこの名前が付けられました。生酛造り同様に、自然界の乳酸菌を取り込んで作ります。
麹・水(水麹)+ 米 + 酵母 = 酛
水麹を使うため、麹と米の付着がゆるやかです。野生的で、ワイルドな味に仕上がるので昔ながらの日本酒が好きな方におススメです。
速醸
現在の主流の方法です。山廃で使用する水麹に更に、乳酸と酵母も入れて蒸米と合わせます。乳酸を人工的に添加することで、酵母が活動するまでの工程が不要となります。
麹・水・乳酸・酵母(水麹) + 米 = 酛
早く安定して造ることができますが、衛生管理が重要です。すっきりとした飲みやすい日本酒になる傾向です。
生酛と山廃の違い
山おろしの有無だと思われがちですが、実際はそれだけではなく、「埋け飯(いけめし)」「手酛(てもと)」という重要な2つの工程が合わさって初めて生酛造りになります。
山おろしの前日に蒸して溶けやすくなった米を冷やす「埋け飯」を行い、米が潰れることを防ぎます。数時間後、蒸米に米麹、水を加えて混ぜる「手酛」を3回行います。これらの下準備があって、翌朝「山おろし」が始まります。これらの準備をすることで、米を守りつつ麹だけを潰し、酵素を満遍なく付着させることができます。
まとめ
工程が変わるだけで、同じお米を使っていても全く異なる味になる日本酒。知れば知るほど奥が深いですね。生酛や山廃というお酒を見かけから、是非飲んでみたいと思います!
参考文献:飲食店日本酒提供協会(2016)『うまい日本酒を知る、選ぶ、もっと楽しむ酒達人が教える、知って飲んで通になる本』株式会社技術評論社